テニス界のレジェンド、ノバク・ジョコビッチが500万ドルのシード資金を調達し、ソルガム(モロコシ)原料の「ポップコーン」ブランド「Cob」を立ち上げた。しかし、この動きが示すのはスナック菓子のトレンドだけではない。セレブたちが美容やテキーラから「食品」へと投資先をシフトさせる、構造的な理由がある。
セレブが続々「ポップコーン」に参入
2025年11月、ジョコビッチは起業家ジェシカ・ダビドフが創業したポップコーンブランド「Cob」の共同創業者として参画し、500万ドルのシード資金調達を主導したとFast Companyが報じた。Cobの特徴は、トウモロコシを一切使わず、ソルガム(モロコシ)という穀物を原料としている点だ。グルテンフリーで、食物繊維、鉄分、植物性タンパク質が豊富に含まれる。
ダビドフは、トウモロコシアレルギーを持つ息子のために代替スナックを探していたことがきっかけでCobを開発した。「アメリカの食品システムにトウモロコシがどれほど浸透しているか、目の当たりにしました」と彼女は語る。
ジョコビッチだけではない。近年、リアリティTV番組で知られるクロエ・カーダシアンがプロテイン配合の「Khloud」を、カントリー歌手ルーク・ブライアンが「Boldly Grown Popcorn」を、そしてポップロックバンド、ジョナス・ブラザーズが「Rob's BackStage Popcorn」を立ち上げている。
ポップコーン市場は急成長している。市場調査会社Mintelによれば、米国のポップコーン市場は2024年までの5年間で31%成長し、35億ドル規模に達した。2029年には38億4000万ドルに達すると予測されている。
クルーニーの10億ドル、リアーナの6億ドル
セレブによる食品・飲料ビジネスは、これまでテキーラや美容分野で大きな成功を収めてきた。
最も有名な成功例は、ジョージ・クルーニーのテキーラブランド「Casamigos」だ。2013年、クルーニーは友人のランディ・ガーバー、マイケル・メルドマンと共に、メキシコ・カボサンルーカスの別荘で個人的に楽しむためのテキーラを作り始めた。ところが、2年間で年間約1000本を蒸留所に発注していたため、蒸留所から「ライセンスを取得して商業化する必要がある」と告げられ、ビジネスへと発展した。
2017年、Diageo社がCasamigosを最大10億ドルで買収した。初期支払い7億ドル、業績連動で最大3億ドルという巨額取引だ。「4年前に10億ドル企業になるとは思っていなかった」とクルーニーは語った。
一方、美容分野では、リアーナの「Fenty Beauty」が業界を席巻している。2017年に設立されたFenty Beautyは、50種類以上のファンデーション色展開で「インクルーシビティ(包摂性)」を打ち出し、2023年には年間約6億ドルの売上を記録。企業価値は約30億ドルと評価され、リアーナの推定資産14億ドルのうち約4.5億ドルがFenty Beautyによるものだ。
では、なぜ今、セレブたちは「スナック」に目を向けているのか?
「利益率40%」が生む新たなゴールドラッシュ
スナック菓子がセレブの投資先として魅力的な理由は、経済構造にある。
コンサルティング会社Baringaのアレックス・クシュニア氏は、スナック製造業者の粗利益率が40%に達すると指摘する。「食品カテゴリーの中でも、最も収益性の高い分野の一つです」。
さらに、スナックは美容製品やアクセサリーと比べて、高頻度・反復購入が見込める。美容やアパレルと同様に高い販売量を確保しながら、より安定した購買パターンを生み出すのだ。
もう一つの追い風が、GLP-1医薬品ブームだ。オゼンピック(Ozempic)やウェゴビー(Wegovy)といった減量薬の普及により、消費者の間食習慣が変化している。「すべての消費財企業が、間食が減っている消費者をターゲットにする方法を模索しています」と、ニューヨークの栄養士サマンサ・カセティ氏は言う。
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Cobが打ち出す「ソルガムはレジスタントスターチで、自然に体内のGLP-1を増やし、満腹感を長く保つ」という訴求は、まさにこのトレンドに合致している。
カーダシアンの「Khloud」は1食あたり7グラムのプロテインを含み、2025年4月にTargetで先行販売された後、2026年1月までにKrogerやWalmartなど全米2万5000店舗以上で販売される予定だ。Khloud CEOのジェフ・ルーベンスタイン氏は、「プロテインスナックは市場全体の3倍の速度で成長しており、ポップコーンは最も成長が速い塩味スナックカテゴリーです」と説明する。
アスリートがスナックを選ぶ理由
ジョコビッチがポップコーン市場に惹かれたのは、彼自身のライフスタイルと関係がある。「家で料理をするのが好きですが、移動が多くスケジュールが過密です。Cobでは、自分のキッチンで使うのと同じ材料とレシピで、外出先でも健康的に食べられるパッケージ食品を作っています」。
Cobは24個入り1オンスパックを59.99ドルで直販サイトから販売する。初回ローンチでは、地中海ハーブ、オリーブオイル&ピンクソルトなど4種類のフレーバーを展開。ジョコビッチは今後、原材料や製品ライン拡張のアドバイザーとして、マーケティングやブランドコラボレーションを支援する。
SkinnyPopが2010年に「ポップコーン、ひまわり油、塩」の3成分だけで大ヒットし、2017年にHersheyが16億ドルで買収して以降、健康志向ポップコーン市場は活況を呈している。その後、ココナッツオイル、オリーブオイル、アボカドオイルを使った新興ブランドが次々と登場し、人工バターを避ける消費者層を取り込んでいる。
「ポップコーンを本当に好きな人にとって、1カップあたり30カロリーしかありません」とカセティ氏は言う。他のカリカリしたスナックと比べて、カロリーが大幅に低いのだ。
セレブたちがスキンケアやテキーラから離れ、ポップコーンという意外な市場に飛び込む背景には、利益率の高さ、反復購入の安定性、そして健康トレンドとの適合性という、明確なビジネスロジックがある。ジョコビッチのCobが、次の10億ドルブランドになるかどうか——その答えは、消費者の間食習慣の変化が握っている。



