ウェイモやテスラの自動運転車が話題を集めるなか、空ではさらに先を行く計画が進んでいる。パイロットのいない「完全自律」のエアタクシーだ。しかも開発しているのは、スタートアップではない。航空業界の巨人、ボーイングだ。なぜ競合他社が避ける、最も困難な道を選んだのか?
ボーイングが賭ける「空の自動運転」
2025年11月、ボーイング傘下のWisk(ウィスク)が、カリフォルニア州マウンテンビューの本社で第6世代エアタクシーをCNETに独占公開した。
Wiskの歴史は2010年に遡る。グーグル共同創業者ラリー・ペイジの支援で設立されたZee Aeroが前身だ。2019年にボーイングと提携し、2023年には完全子会社となった。ボーイングの狙いは明確だ。世界初となる、FAA(米連邦航空局)認証を受けた完全自律旅客機を市場に送り出すこと。これまでに2000回以上のテスト飛行を重ねてきた。
第6世代機は、2030年にヒューストン、ロサンゼルス、マイアミでのサービス開始を目指している。
「パイロット席がない」という設計思想
Wiskの機内に足を踏み入れると、そこはSUVのような空間だ。4つの座席、4つのドア。アームレスト、カップホルダー、充電ポート。Wi-Fiとエアコンも完備されている。
だが、何かが決定的に欠けている。操縦席だ。
「パイロット席を排除したことで、4人の乗客スペースが生まれた」と、Wiskのプロダクトデザイン責任者ウリ・ツァルノツキーは説明する。これは単なるスペース効率の問題ではない。Wiskは最初から、人間のパイロットなしで飛ぶことを前提に設計されている。
競合のJoby AviationやArcher Aviationとの根本的な違いがここにある。彼らの機体にはパイロット席がある。Wiskにはない。
Joby、Archerは「有人」で先行する
eVTOL(電動垂直離着陸機)市場では、JobyとArcherが先行している。
Joby Aviationは2026年にドバイでの商業運航開始を目指し、FAA認証に最も近い位置にいる。トヨタから5億ドルの出資を受け、エヌビディアとは自律飛行技術「スーパーパイロット」の開発で提携。S4機は航続距離150マイル、最高速度200mph。パイロット1名と乗客4名を乗せる。
Archer Aviationは2028年ロサンゼルス五輪の公式エアタクシーに選定された。大韓航空とは100機の購入契約を締結。Midnight機は航続距離100マイル、最高速度150mph。こちらもパイロットが搭乗する。
両社とも将来的には自律化を視野に入れている。だが、まずは有人でスタートし、実績を積む戦略だ。Wiskとは真逆のアプローチである。
自律飛行の「意外な真実」
興味深いのは、Wiskの「自律飛行」の中身だ。
「機体は思考していません。機械学習もしていません。実際には非常に信頼性が高く、予測可能なことをしているのです」と、ツァルノツキーは語る。
Wiskのエアタクシーは、事前にプログラムされたルートを飛ぶ。緊急時の代替着陸地点、悪天候時の迂回ルートも、すべて事前に設定されている。唯一のリアルタイム処理は、他の航空機を検知して回避する機能だけだ。
これは、現在の商用機と大きく変わらない。ツァルノツキーによれば、商用機が空中にいる時間の93%は、すでにオートパイロットが制御している。Wiskはその延長線上にある技術なのだ。
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では、パイロットの代わりに誰が責任を持つのか。地上の監視員だ。複数の機体を同時に監視し、航空管制と通信し、緊急時には介入できる。機内にはカメラが設置され、乗客はアプリや機内ボタンで助けを求めることができる。
なぜ「最も困難な道」を選んだのか
Wiskの戦略は、一見すると不利に見える。Axiosの報道によれば、「Wiskの規制当局への道のりは、他の電動エアタクシーよりもさらに困難だ。機体にパイロットがおらず、地上の監視員が複数の機体を同時に監視する形式だからだ」。
JobyやArcherが2025〜2026年の認証取得を目指すなか、Wiskの目標は2028年。数年遅れのスタートとなる。
それでもボーイングがこの道を選んだ理由は、スケーラビリティにある。
Smart Cities Diveの取材に対し、Wiskのパートナーシップ担当マネージャー、J・C・アセンシオはこう説明した。「パイロットと航空機整備士の不足」が業界の課題であり、「先述のように商用機の飛行時間の93%はオートパイロットで制御されている」と。自律化なしに、エアタクシー産業はスケールしない。パイロットを雇うコストが運賃に上乗せされ続ける限り、大衆交通にはなれないのだ。
さらに、中国ではすでに先を越されている。EHangは2024年12月、世界初となる完全自律eVTOLの乗客飛行を実施した。中国民用航空局(CAAC)の認証を取得し、深圳では1日500便以上の観光・緊急対応フライトを運航している。
米国でFAA認証を取得できれば、Wiskは西側諸国で唯一の完全自律エアタクシーとなる。認証取得の困難さは、そのまま参入障壁の高さになる。
ボーイングは、最も困難な道が最も価値ある道だと賭けているようだ。



