アメリカ人は年間1人あたり45キロのチキンを食べる。フライドチキンの本場アメリカで、その元祖であるケンタッキー・フライドチキン(KFC)が苦戦している。1960年代にはアメリカ最大のファストフードチェーンだった「カーネル・サンダース」ブランドが、なぜ王座を失ったのか? そして、復活の道はあるのか?
1960年代、KFCはアメリカ最大のファストフードチェーンだった
KFCの歴史は1930年代のケンタッキー州のガソリンスタンドから始まる。創業者ハーランド・サンダースは、スタンド併設の小さなレストランで、圧力鍋を使った独自のフライドチキンを完成させた。11種類のハーブとスパイスを調合したレシピは評判を呼び、やがてケンタッキー州から「カーネル(大佐)」の称号を授与された。軍歴ではなく、チキンの功績で得た称号だった。
1950年代、新しい高速道路の開通でガソリンスタンドの客足が減ると、サンダースはレシピをフランチャイズ化する道を選んだ。そこで生まれたのが、赤と白のバケツに入った骨付きチキンだ。
「家族全員分のチキンとサイドメニューが入っている。14ピースのチキンにグレービーソース、ビスケットかマッシュポテト。家族で食卓を囲んで、陶器の皿に取り分けて食べられる」と、WSJのヘザー・ハドン記者は語る。このファミリーミールという概念が、忙しいアメリカの家庭に刺さった。
1960年代までに、KFCは数百店舗を展開し、アメリカ最大のファストフードチェーンとなった。1987年には西側企業として初めて中国に進出。現在、世界150カ国に店舗を構える。
骨なし革命に乗り遅れた
しかし、競合が現れた。ジョージア州発のチックフィレイだ。この新興チェーンは、KFCとは真逆の戦略を取った。骨なしチキンだけを売る。サンドイッチとテンダーに特化し、南部式のホスピタリティで顧客を魅了した。
チックフィレイの成長とともに、アメリカの食習慣も変化していた。家族で食卓を囲む時間は減り、人々は車の中で食事をするようになった。ある調査会社によれば、ファストフードの26%が車内で消費されている。片手でハンドルを握りながら、もう片方の手でチキンサンドイッチを食べる方が、ドラムスティックより適している。
決定的だったのは2019年の「チキンサンドイッチ戦争」だった。ポパイズが新しいチキンサンドイッチを発表し、チックフィレイに挑戦状を叩きつけた。SNS上で論争が巻き起こり、ポパイズには行列ができた。2019年第4四半期の売上は前年比42%増を記録。マクドナルドもウェンディーズも、相次いでチキンサンドイッチを投入した。
KFCは不在だった。チキンサンドイッチを再投入した時には、すでに戦いは終わっていた。さらに驚くべきことに、KFCが本格的にナゲットを販売し始めたのは2023年になってからだ。
サプライチェーンの呪縛
なぜ、フライドチキンの元祖が、骨なしチキンの波に乗れなかったのか?
「習慣と伝統、そして経営判断の問題もある。だが、ナゲットを作るには、まったく異なるサプライチェーンが必要だ。骨付きチキンで構築したサプライチェーンを、骨なしチキン用に再編成するには時間とコストがかかる。サプライヤーも違うし、設備投資も必要だ」とハドン記者は指摘する。
もう一つの問題は、ブランドイメージの固定化だった。KFCといえば、赤と白のバケツ。骨付きチキンを家族で囲むイメージが強すぎた。
「顧客からは『昔とは違う』という声を聞く。店舗が古く見える、メニューが時代遅れに見える、という意見だ」
新リーダーシップと「Saucy」戦略
KFCを所有する巨大外食企業ヤム・ブランズ(タコベル、ピザハットも傘下)は、事態を打開するため新しいリーダーシップを投入した。マーケティングとグローバル経験を持つ新しいUS社長、そしてウィングストップ出身の新CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)だ。
彼らが打ち出した新戦略の目玉が「Saucy(ソーシー)」だ。これはKFCのスピンオフブランドで、骨なしチキンだけを売る。テンダー、サンドイッチ、ラップに、11種類のソースを組み合わせる。ターゲットは、バケツに興味のない若い世代だ。
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フロリダで1号店を開業し、さらに13店舗を買収してSaucyに転換する計画が進んでいる。KFCの広報担当者は「ファストフードのカムバックストーリーの初期段階にある。軌道については楽観的だ」とコメントしている。
攻撃的マーケティングとノスタルジー
もう一つの変化は、マーケティングの姿勢だ。KFCはいま、競合を名指しで攻撃している。
特にチックフィレイに対しては「日曜日も営業してます」と皮肉を込めたメッセージを打ち出している。チックフィレイは宗教的理由で日曜休業を貫いているため、ここが弱点だ。広告では、カーネル・サンダースが「チキン市場での我々の立ち位置には満足していない」と宣言する。
ノスタルジー戦略も展開している。1990年代に人気だったポテトウェッジとハニーバーベキューサンドイッチを復活させ、オリジナルバケツの割引キャンペーンを実施している。
6四半期ぶりの成長
これらの戦略は、機能し始めているのか?
2025年11月初旬、親会社ヤム・ブランズの決算が発表され、KFC USは2%の同店売上成長を記録した。6四半期連続の減少を経ての、プラス成長だ。まだ小さな数字だが、兆しはある。
過去の成功は、未来の成功を保証しない。しかし、消費者の声に耳を傾け、時代に合わせて進化し続ければ、復活の道はある。KFCのカムバックストーリーは、まだ始まったばかりだ。


