1世紀で約12メートル——宇宙から見える沈下
メキシコシティの地盤沈下は、もはや地上の計測器だけでは追いきれない規模に達した。NASAによれば、この100年足らずで都市全体が約12メートルも沈んでいる。年間の沈下量は約25センチで、10階建てのビルがまるごと地面に埋まるほどの変動が1世紀のうちに起きた計算になる。
2025年7月に打ち上げられたNASA・ISRO共同の地球観測衛星「NISAR」が、この沈下の全貌を宇宙から詳細にマッピングした。NISARは12日ごとに地球の陸地と氷床を観測し、地表のミリメートル単位の変動を捉えることができる。
古代湖の上に広がる2,200万人都市
メキシコシティは、古代の湖の湖底跡に建設された。柔らかい粘土層の上に都市が広がっているため、地盤はもともと脆弱だった。
問題を深刻化させたのは、2,200万人の生活を支えるための大規模な地下水の汲み上げだ。帯水層から水を抜き取ると粘土層が圧縮され、地表がそれに引きずられるように沈む。都市の象徴であるグアダルーペ聖母大聖堂も、肉眼でわかるほど傾いているという。
沈下は地盤だけの問題にとどまらない。下水管や水道管の勾配が狂い、洪水リスクが高まるという悪循環も指摘されている。
2つのレーダーが映す「見えない変動」
NISARの技術的な強みは、異なる波長の合成開口レーダー(SAR)を2基搭載している点にある。NASAが提供したLバンドSARと、ISROが提供したSバンドSARを組み合わせることで、地表の動きだけでなく地下構造の変動まで推定できるようになった。
NASAジェット推進研究所の地球物理学者エリック・フィールディングは「LバンドとSバンドを組み合わせることで、地表の下で何が起きているかについてさらに多くの情報が得られる」と述べる。直径約12メートルのレーダーアンテナ反射板は、NASAが宇宙に送り出した中で最大のものだ。
宇宙の「診断」が開く、都市再生への道筋
NISARがもたらすデータは、沈下の記録だけで終わらない可能性がある。12日周期の継続的な観測により、どの地域がどの速度で沈んでいるかをリアルタイムに近い精度で把握できるようになった。地下水の汲み上げ制限や代替水源の確保といった対策を、地域ごとに最適化するための基盤となりうる。
NISAR科学チームのポール・ローゼンは「NISARの独自のセンシング能力と一貫したグローバルカバレッジにより、世界中で新たな発見が相次ぐだろう」と語る。メキシコシティで実証された観測技術は、同様の地盤沈下に悩む世界各地の都市にも応用できる。沈みゆく古代湖の都が、宇宙からの視線によって再生の手がかりを掴みつつあるのかもしれない。

