テクノロジー 2025年11月19日

Text by SPARK Daily

「30年」の海洋データが生む300億ユーロ。欧米が衛星に投資し続ける理由

「30年」の海洋データが生む300億ユーロ。欧米が衛星に投資し続ける理由

カリフォルニア州ヴァンデンバーグ宇宙軍基地から、海洋監視衛星「Sentinel-6B」が打ち上げられた。地球の海面の90%以上を追跡し、1992年から続く30年以上の海面測定データを継続する巨大プロジェクトだ。この衛星が追いかけているのは、海面の高さだけではない。30年以上続くデータセットの背後には、どんな戦略があるのだろうか?

双子衛星が30秒差で飛ぶ理由

Sentinel-6Bは、5年前に打ち上げられた双子衛星「Sentinel-6 Michael Freilich」の30秒後ろを飛行する。NASAの公式発表によれば、打ち上げから約57分後にロケットから分離し、その後112分ごとに地球を周回する。秒速7.2キロメートル。この驚異的な速度で、2機の衛星は地球の海面を追跡し続ける。

双子衛星が30秒差で飛ぶ理由は「データのクロスキャリブレーション(相互校正)」にある。2機の衛星が同じ海域を異なる時間に観測することで、測定精度を極限まで高める。NASA JPLの科学者ジョシュ・ウィリスは語る。「これらのミッションは、海面測定におけるゴールドスタンダードだ。気候変動の理解と監視に不可欠である」

科学者たちはいま、この相互校正の完了を待っている。完了後、Sentinel-6Bが主要な海面測定を担当し、Sentinel-6 Michael Freilichは別の軌道に移動する。そこで新たな役割を担うことになる。

海面測定が支える3つの領域

NASAが公式に発表したデータによれば、Sentinel-6Bの海面データは3つの領域を支えている。

第一に、防災と沿岸インフラの保護。発電所、防衛施設、不動産。世界人口の約半数が沿岸部に居住しているため、海面上昇の正確な予測は都市計画に欠かせない要素となっている。ハリケーンの強度予測も改善される。気象予報士は、Sentinel-6Bのデータを使って、嵐の激化の可能性を予測し、災害への備えを強化できる。

第二に、商業活動の最適化。海運ルート、石油掘削、漁業、海軍作戦。リアルタイムの海流情報は、これらすべての効率を高める。メキシコ湾流やその関連する渦流といった中規模の海洋現象をシミュレートするモデルの精度も向上する。

第三に、宇宙開発。NASAは明言している

「NASAはこのデータを使って、アルテミス計画の宇宙飛行士の安全な再突入を支える大気モデルを改良する」

海洋データが宇宙開発にも応用される構造。これは一体どういうことなのか?

海洋と大気は密接に結びついている。海面の高さは、海流の強さと位置を示す指標だ。海流は熱とエネルギーを地球全体に運ぶ。この熱とエネルギーの移動が、大気の動きを左右する。海面データは大気モデルの精度を高め、結果として宇宙船の再突入経路の予測改善にもつながる。

欧米が投資し続ける「データの連続性」

なぜ欧米は30年以上も海洋監視に投資し続けるのか?

1998年から2020年までのコペルニクス計画の総費用は67億ユーロと推定されている。そのうち約43億ユーロが2014年から2020年の期間に費やされ、EU(67%)とESA(33%)が分担した。この投資によるEU経済への利益は、2030年までに300億ユーロと推定されている。

投資対効果は10倍。独立した研究によれば、コペルニクスに投資された1ユーロは、より良い意思決定、より効率的な政策実施、自然災害への備えによる節約により、最大10ユーロの経済的利益を生む。

金銭的価値以上に重要なのが「データの連続性」だ。

1992年、TOPEX/Poseidon衛星が最初の海面測定を開始した。その後、Jason-1(2001年)、Jason-2(2008年)、Jason-3(2016年)と続き、30年以上の連続データを構築してきた。データにギャップがあれば、長期的な気候変動の把握が難しくなる。衛星によってデータ収集方法が大きく変われば、研究者はその変動を考慮しなければならない。

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Sentinel-6/Jason-CSミッションは、この連続性を維持するための戦略だ。NASA、ESA、EUMETSAT、NOAAの4機関が協力し、2030年までデータセットを延長する。NASAの地球科学部門ディレクター、カレン・セント・ジャーメインは言う。「我々には海面上昇の明確なビューがあり、海洋がどれだけ、どれほど速く上昇し続けるかをより良く予測できる。これはNASAとフランスのCNESが数十年にわたって海洋観測を収集してきたからだ」

これが、欧州がコペルニクス計画に巨額投資を続ける理由だ。地球観測データの民主化。すべてのデータは無料かつオープンに提供される。誰でもアクセスでき、誰でも利用できる。この戦略により、欧州の地球観測セクターには772社、約1万3,796人が雇用され、17億9,600万ユーロの収益を生み出している

30年以上のデータは、気候変動の軌跡を正確に把握できるため、政治的にも経済的にも価値を持つ。

次の5年、海底地形マッピングへ

Sentinel-6Bがデータの相互校正を完了した後、Sentinel-6 Michael Freilichは別の軌道に移動する。そこで新たな役割を担う。海底地形のマッピングだ。

NOAA(米国海洋大気庁)が発表したデータによれば、世界の海洋深度のわずか15%しか高解像度で直接測定されていない。沿岸水域の50%は、いまだ測量されていない。

海面の高さの変化から、海底の山脈(シーマウント)を特定できる。海底の地形は、海面の高さに微妙な影響を与える。双子衛星システムの「第二の役割」。Sentinel-6 Michael Freilichは、新しい軌道から海底地形を観測し、科学者たちに海底の地質学的特徴について新たな洞察を提供する。

リアルタイムの海流情報は、海洋、漁業、海軍作戦にとって重要だ。正確な海洋熱容量の測定は、気象予報士がハリケーンや熱帯低気圧の強度をより良く予測し、全球気候予測を改善するのに役立つ。海底地形データは、こうした用途すべてに貢献する。

2026年、Sentinel-6Bが主要な海面測定を引き継ぎ、Sentinel-6 Michael Freilichが海底マッピングを開始すれば、30年以上続く海洋監視プロジェクトは新たな段階に入ることになるだろう。欧米が投資を続ける理由は、データの連続性と、そのデータが生み出す応用可能性にあると見られる。

Source: jpl.nasa.gov ほか

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