元Meta社員が音声メモ用スマートリング「Stream」を発表した。Ouraが80%のシェアを握る「ヘルストラッキング型」とは全く異なる、未開拓の「音声インタラクション型リング」市場への挑戦だ。
Ouraが支配する「ヘルストラッキング市場」
スマートリング市場は、今やOuraの独壇場だ。2023年時点で市場シェア80%を握り、2025年9月には累計販売台数550万台を突破。売上は2024年の5億ドルから、2025年には10億ドルに達する見込みだ。
市場全体も急拡大している。複数の調査会社によれば、スマートリング市場は2025年で3億5000万〜4億1000万ドル規模、2030年までに10億ドルを超えると予測される。米国の調査会社Circanaのデータでは、フィットネストラッカー売上全体の75%をスマートリングが占めるようになった(2025年、前年は46%)。
Ouraが定義したパラダイムは明確だ。「24時間装着、受動的データ収集」。睡眠、心拍数、体温を常時モニタリングし、健康状態を可視化する。ユーザーは何もしなくていい。ただ指に嵌めているだけで、データが蓄積される。
Streamが狙う「未開拓の音声市場」
そこに、全く異なるアプローチで参入しようとしているのが、元Meta社員が創業したSandbarだ。2025年11月5日、同社は音声メモ用スマートリング「Stream」を発表した。
創業者のミナ・ファーミとキラック・ホンは、MetaがCTRL-Labsを買収した際に入社し、スマートウェアラブル向けのニューラルインターフェース開発に携わっていた。ファーミはその前に、スマートグラスのマジック・リープやブライアン・ジョンソンのカーネルで人間とコンピュータのインターフェース設計を手がけた人物だ。
Streamの設計思想は、Ouraとは正反対だ。デフォルトでマイクはオフ。リングのタッチパッドを押している間だけ、マイクが起動する。囁き声でも拾える感度で、周囲に聞かれずに思考を記録できる。
「アイデアが浮かぶのは、歩いている時や通勤中が多い。その瞬間にスマホを取り出すと、思考が途切れる。イヤホンに向かって大声で話すのも嫌だ。思考が浮かんだ瞬間に、それをキャプチャする方法を考えた」とファーミはTechCrunchのインタビューで語っている。
価格は、シルバー版が249ドル、ゴールド版が299ドル。Proサブスクリプションは月10ドルで、無制限のチャットとメモ、新機能への早期アクセスが提供される(予約者は3ヶ月無料)。出荷は2026年夏の予定だ。
「24時間装着」vs「能動的使用」
OuraとStreamは、同じ「指輪」というフォームファクターを採用しているが、目的が根本的に異なる。
Ouraは「体を監視する」。ユーザーは何もしない。リングが勝手にデータを集め、睡眠スコア、活動量、回復度を記録する。すべて受動的だ。
Streamは「思考を記録する」。ユーザーがボタンを押した時だけ起動する。アイデアが浮かんだ瞬間、タスクを思い出した瞬間に、リングが動く。能動的な使い方が前提となる。
この違いが、ユーザー体験を根本から変える可能性がある。Ouraのユーザーは「朝起きて睡眠スコアを確認する」という受動的な習慣を持つ。Streamのユーザーは「思考が浮かんだらボタンを押す」という能動的な習慣を身につける必要がある。
どちらが優れているかではない。どちらのパラダイムが、ユーザーに受け入れられるか。それが問われることになる。
AI音声ハードウェアの「失敗の系譜」
Streamが参入する音声AI機器市場は、まだ成功事例がない。ペンダント型、ピン型、リストバンド型と、多様なフォームファクターが試行錯誤されてきたが、いずれもメインストリームには達していない。
Humane AI Pinは、2025年2月にHPに売却された。Rabbitは、ユーザー離れに悩み、ソフトウェアアップデートで改善を図っている。Friendは、ユーザーの反発を利用した炎上マーケティングで注目を集めたものの、持続的な成長には繋がっていない。
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Streamも、同じ課題に直面することになりそうだ。
本当に便利なのか?ペンダント、ピン、リストバンドではなく、なぜ指輪なのか? 毎日ボタンを押し続けるという習慣は定着するのか?
True Venturesのパートナーであるトニー・シュナイダーは、TechCrunchの取材でこう語っている。「音声とAIの相性が良いことは誰もが認める。そして、音声だけで済むなら、スマホやラップトップは重すぎる。新しいフォームファクターが必要だ。しかし、これまで見てきた多くのデバイスは的を外していた。ミナのデモを見た時、これは理にかなっていると感じた」
チャレンジャーの前に立ちはだかる壁
Sandbarは、True Ventures、Upfront Ventures、Betaworksから1300万ドルを調達した。しかし、これはOuraの成功と比べれば、まだ小さい。Ouraは2025年10月に9億ドルを調達し、企業価値は約110億ドルに達した。
スマートリングは、Ouraによって「ヘルスチェッカー」として定義された。その定義は、もはや市場に深く根付いている。消費者が「スマートリング」と聞いて思い浮かべるのは、Ouraのような健康トラッキング機能だ。
Streamは、それとは全く異なる「思考を記録する道具」として指輪を再定義しようとしている。しかし、市場がその再定義を受け入れるかは、まだわからない。
音声AI機器市場は、まだメインストリームに達していない。指輪が音声記録に最適なフォームファクターなのかも、証明されていない。Streamは、未開拓の市場に賭けるチャレンジャーだ。
この挑戦は成功するのか? 答えは、2026年夏に明らかになりそうだ。


