テクノロジー 2025年11月3日

Text by SPARK Daily

国際宇宙ステーション25周年。人類が宇宙に住み続けた意義とは

国際宇宙ステーション25周年。人類が宇宙に住み続けた意義とは

2000年11月2日、国際宇宙ステーション(ISS)に最初の宇宙飛行士が到着してから25年。人類は9,125日間、一度も宇宙から離れることなく滞在し続けた。しかし、この記録が意味するのは技術的偉業だけではない。地上では対立が深まる中、宇宙では今も米ロが協力し続けている。この矛盾が照らし出すのは、人類が国境を越えて協力できる可能性と、それがいかに脆いかという現実だ。

25年間、人類が宇宙から途切れなかった意味

2000年10月31日、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地からソユーズロケットが打ち上げられた。搭乗していたのは、NASA宇宙飛行士ウィリアム・シェパードと、ロシアの宇宙飛行士ユーリ・ギゼンコセルゲイ・クリカレフの3人。Expedition 1と呼ばれるこのミッションは、11月2日にISSに到着し、約5ヶ月間滞在した。

それから25年。ISSは約260マイル(約418km)上空を周回し続け、26カ国から280人以上の宇宙飛行士が訪れた。その中には、155人のアメリカ人、52人のロシア人、そして11人の日本人が含まれる。人類は2025年11月2日まで、一度も宇宙から人がいなくなることなく、連続滞在記録を更新し続けている。

日本の貢献:12人目の宇宙飛行士と「きぼう」実験棟

日本は1988年の政府間協定から参加し、ISS計画において重要な役割を担ってきた。最大の貢献は、2008年から2009年にかけて設置された日本実験棟「きぼう」だ。船内実験室、船外実験プラットフォーム、ロボットアームで構成される「きぼう」は、ISS最大の実験モジュールであり、微小重力環境を活用した様々な科学実験に使用されている。

特筆すべきは「きぼう」の静音性だ。他のモジュールが騒音問題に悩まされる中、「きぼう」はNC-50以下の仕様要求を満たし、ISSで最も静かなモジュールとなった。当初のISS作業エリアの騒音レベルは72-78dBに達し、宇宙飛行士は1日中耳栓の着用を強いられていたが、日本の設計思想がこの問題を解決する一助となった。

現在ISSに滞在中のCrew-11には、JAXA宇宙飛行士の油井亀美也が参加している。これまでに日本からは、毛利衛、向井千秋、若田光一、野口聡一、古川聡、星出彰彦、油井亀美也、大西卓哉、金井宣茂、野口聡一(2回目)、星出彰彦(2回目)、若田光一(5回目)の12人がISSに滞在した。

また、JAXAが2009年から2020年まで運用した無人補給船「こうのとり」(HTV)は、スペースシャトル退役後、大型実験ラックを輸送できる唯一の補給船として重要な役割を果たした。2016年から2020年にかけては、ISSの全リチウムイオンバッテリー24基をGSユアサ製バッテリーに交換する作業を完遂し、ISSの電力システム刷新に貢献した。

冷戦後の「宇宙外交」:米ロ協力の象徴

ISSの起源は、1980年代初期のレーガン大統領による「フリーダム計画」にさかのぼる。これは西側諸国の結束力をアピールし、ソビエト連邦に対抗する政治的意図が強いプロジェクトだった。しかし、米国と欧州の財政難、1986年のスペースシャトル・チャレンジャー号爆発事故、そして1991年のソ連崩壊により、計画は大きく変容を余儀なくされた。

1998年、状況は劇的に変化した。かつての冷戦の敵国だったロシアが、正式にISS計画に参加することになったのだ。ロシアは独自の宇宙ステーション「ミール」を1986年から運用していたが、ソ連崩壊後の混乱と財政難で老朽化が進んでいた。米国はロシアを取り込む目的もあって、統合計画を持ちかけた。

1998年11月20日、ロシアが製造した最初のモジュール「ザーリャ」が打ち上げられ、ISS建設が開始された。興味深いのは、ザーリャの製造費用は米国が負担したが、設計と運用はロシアが担当したことだ。続いて2000年7月には、完全にロシア資金で製造された居住モジュール「ズヴェズダ」が打ち上げられた。

Expedition 1の構成員を見れば、この協力関係の性格が明確になる。米国人1人、ロシア人2人という構成は、ロシアの技術的貢献の大きさを物語っている。ISSの姿勢制御、軌道維持、生命維持システムの多くは、今もロシア側モジュールに依存している。

地政学的緊張の中で続く協力

2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻が開始された。西側諸国は厳しい経済制裁を科し、ロシアは孤立を深めた。この時、ロスコスモス(ロシア宇宙公社)の社長ドミトリー・ロゴージンは、ISSの軌道修正が年平均11回実施されていると主張し、経済制裁解除を求めた。ISS運用からの撤退をちらつかせる発言だった。

しかし、ISSの運用は途切れなかった。米国は無人補給船シグナスでも軌道修正が可能であることを実証し、2022年6月27日には実際にISSの軌道上昇に成功した。ロシアも2024年以降の撤退を表明したが、自前の宇宙ステーション建設が遅れる見込みから、最終的には2028年までの参加延長を決定している。

現在もISSには、米国、ロシア、日本の宇宙飛行士が共に滞在している。Crew-11にはロシア宇宙飛行士オレグ・プラトノフが参加し、別途、コスモノート2人がソユーズ宇宙船でISSに滞在中だ。地上では対立が続く中、宇宙では協力が維持されている。これは単なる慣性ではない。ISS運用には米ロ双方の技術が不可欠であり、一方的な撤退は両国にとって損失となるからだ。

ロシアの「ズヴェズダ」モジュールは2019年頃から老朽化による空気漏れなどの不具合が指摘されている。2030年の運用終了は、技術的限界と地政学的現実の両方を反映した判断だ。

2030年の引退と民間への移行

NASAは2024年、ISS廃棄用の宇宙船(USDV)をSpaceXと共同開発する方針を明らかにした。総重量約450トンのISSを牽引するため、USDVはドラゴン2をベースに、推力を4倍、推進剤を6倍に強化する。開発費は最大8億4300万ドルで、軌道離脱から廃棄までは約2年を要する見込みだ。

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ISSを完全に焼却するのは難しく、一部は地表に落下すると想定されるため、残部品は南太平洋上に落下するよう制御される予定だ。かつて1979年に米国の宇宙ステーション「スカイラブ」が制御不能のまま大気圏に再突入し、残骸がオーストラリアに落下した教訓が生きている。

ISS引退後の低軌道は、民間企業に委ねられる。Axiom Spaceは商業宇宙ステーション建設を進めており、まずISSにモジュールを接続し、ISSの引退後に分離して独立したステーションとする計画だ。元NASA長官ジム・ブライデンスティンは「現在の予算制約を考えると、月に行きたい、火星に行きたいのであれば、低軌道を商業化して次のステップに進む必要がある」と述べている。

宇宙開発の「民営化」は、単なる予算削減策ではない。SpaceXのファルコン9とドラゴン宇宙船、ノースロップグラマンのシグナス補給船など、民間企業はすでにISS運用の重要な役割を担っている。商業宇宙ステーションは、製薬、材料科学、宇宙観光など、より多様な用途に開かれることになる。

国境を超える夢と、地上の現実

ISSは25年間、人類が国境を越えて協力できることを証明してきた。冷戦の敵国だった米ロが共同で運用し、日本、欧州、カナダが参加する。宇宙飛行士たちは、地上の政治的対立とは無関係に、科学実験を行い、互いに助け合ってきた。

しかし、この協力がいかに脆いかも、同時に明らかになった。中国は2007年にISS参加を打診したが、米国の反対により拒否され、独自の中国宇宙ステーションを運用している。インドも同様の経緯をたどり、独自のステーション建設を決定した。ロシアのウクライナ侵攻後も、協力は続いているが、2028年以降の体制は不透明だ。

興味深いのは、中国宇宙ステーションの騒音レベルが作業エリアで58dB、寝室で49dBと、ISSよりも静かに設計されていることだ。ISSが直面した問題から学び、次世代の宇宙ステーションはより洗練されている。人類の宇宙開発は、協力と競争の両方によって前進する。

ISSの25年は、人類に何を残したのか。それは、「宇宙では協力できる」という希望と、「地上の対立は宇宙にも影響する」という現実の両方だ。2030年以降、低軌道に複数の宇宙ステーションが並存する時代が来る。新たな協力の時代となることを期待したい。

Source: USA Today ほか

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